ビルの一室を借りて営業を始めると、エントランスの掲示や管理会社からの案内に「統括防火管理者」という言葉が出てくることがあります。自分の店や事務所にも防火管理者がいるのに、建物全体をまとめる人がさらに必要なのはなぜか、戸惑う場面です。答えは、建物の階数・人数・用途などによって分かれます。前提として、建物の管理について権原(建物の管理や使用を決められる立場)を持つ人が分かれている必要があります。ビルを所有・管理する側にとっても、自分の建物が対象になるのかは気になるところです。この記事では、対象かどうかの見分け方、建物全体の消防計画と各テナントの消防計画の関係、入居後にテナント側が知っておくこと、地震などに備える防災管理との違いを説明します。飲食店、店舗、事務所、施設などが入るビルが、身近な場面にあたります。

1. 統括防火管理者とは。ビル全体の防火管理をまとめる人
防火管理者は、ひとつの区画や建物の防火管理を担う人です。ところが、ビルのように複数の人が建物の管理に権原を持っていると、区画ごとに防火管理者がいても、廊下や階段、避難口といった共用部分を誰がまとめるのかが問題になりやすい点です。法は、一定の建物では、権原を有する者が協議して、建物全体の防火管理をまとめる統括防火管理者を定めなければならないとしています(消防法第8条の2第1項)。
統括防火管理者が行う業務は、法に挙げられています。建物全体についての消防計画の作成、その消防計画に基づく消火・通報・避難の訓練の実施、廊下・階段・避難口その他の避難上必要な施設の管理、その他、建物全体の防火管理に必要な業務です(消防法第8条の2第1項)。
統括防火管理者を中心にした仕組みは、図のとおりです。
各テナントの防火管理者との関係は、条文で定められています。各区画の防火管理者が作る消防計画は、統括防火管理者が作る建物全体の消防計画に適合するものでなければなりません(消防法第8条の2第3項)。また、統括防火管理者は、必要があると認めるときは、各区画の防火管理者に対し、業務の実施のために必要な措置を講ずるよう指示できます(消防法第8条の2第2項)。
条文の構成からは、区画の中の管理は各区画の防火管理者の側に、建物全体の計画・訓練・避難施設の管理は統括防火管理者の側にある、と考えられます。
2. 対象になる建物の見分け方。令第3条の3の4区分
政令が定める区分は4つです。見るのは、用途・地階を除く階数・収容人員(建物にいる人の数)の組み合わせで、権原が分かれていることも前提になります。
政令が定めているのは4つの区分です。消防法施行令第3条の3が、統括防火管理者を定める建物をこの区分で決めています。ほかに、法が高層建築物(高さ31mを超える建築物)と地下街を挙げています(消防法第8条の2第1項)。4つの区分では、階数は地階(地下の階)を数えず、地上の階数で見ます。
表の見方は、左の列で区分と用途を確かめ、右の列で階数と収容人員の条件を見ます。
| 区分と用途(令別表第一の項) | 地階を除く階数・収容人員 |
|---|---|
| 区分1: (六)項ロ(避難が困難な要配慮者が利用する施設)。および、(十六)項イで(六)項ロの用途の部分があるもの | 階数3以上、収容人員10人以上 |
| 区分2: (一)〜(四)項、(五)項イ、(六)項イ・ハ・ニ、(九)項イ、(十六)項イ((六)項ロの用途の部分があるものを除く) | 階数3以上、収容人員30人以上 |
| 区分3: (十六)項ロ | 階数5以上、収容人員50人以上 |
| 区分4: (十六の三)項 | 条件なし |
(消防法施行令第3条の3第1号〜第4号)
表の用途を、見分けやすい言葉で補います。複数の用途が入るビルは、複合用途として(十六)項に当たる場合があります。どの項に当たるかは建物ごとに異なります。(十六)項のうち、(一)〜(四)項、(五)項イ、(六)項、(九)項イのいずれかの用途を含むものが(十六)項イで、それ以外の複合用途が(十六)項ロです。飲食店や物販店は、表の(一)〜(四)項の用途に当たります。これらの特定防火対象物(多数の人が出入りする建物などとして法令で定められた防火対象物)の用途を含む複合ビルが(十六)項イに当たる場合は、区分1か区分2の見方になります。特定防火対象物にあたらないものが、非特定防火対象物です。2つの見分け方は、特定防火対象物と非特定防火対象物の違いで説明しています。(十六の三)項は、建築物の地階で、連続して地下道に面して設けられたものと、その地下道を合わせたものです(一定の用途の部分があるものに限ります)。いわゆる準地下街で、階数や人数の条件はありません。
仮の数字で、表に当てはめてみます。
地上4階建てで、1階に物販店、2階に飲食店、3階と4階に事務所が入る複合ビルがあるとします。建物全体の収容人員は、40人とします。このビルは複合用途の(十六)項イに当たり、物販店と飲食店(特定防火対象物)を含みます。避難が困難な要配慮者が利用する施設の部分はありません。地階を除く階数が3以上、収容人員が30人以上なので、区分2の数字の条件に当たります。権原が分かれていれば、統括防火管理者を定める対象になります。
実際には、収容人員の数え方や、どの項に当たるかが、建物ごとに異なります。自分の区画の人数だけで、対象かどうかを判断しないことが大切です。
事業場(事務所など。非特定防火対象物)だけのビルは、表の用途の一覧に事務所が挙がっていないため、表には直接出てきません。対象になるかどうかは、建物の高さと用途の組み合わせで変わります。高層建築物や地下街のように、法が表とは別に挙げている建物もあるため、表にあてはまらないからといって、対象外と決めつけないでください。不明な場合は、管轄の消防本部に確認してください。
対象かどうかの見分け方は、図のとおりです。

3. 誰が何を決めるか。協議・資格・消防計画・届出
統括防火管理者は、権原を有する者が協議して定めます。定めたら消防へ届け出て、建物全体の消防計画も作って届け出ます。
統括防火管理者は、権原を有する者が協議して定めます(消防法第8条の2第1項)。
統括防火管理者になれるのは、防火管理者の資格(甲種防火管理講習の修了者など)を持つ人のうち、要件を満たす人です。建物によって求められる区分が異なります(消防法施行令第4条第1項)。要件は3つです。権原を有する者から、建物全体の防火管理に必要な権限を与えられていること。業務の内容の説明を受け、十分な知識を持っていること。建物の位置・構造・設備の状況などの説明を受け、十分な知識を持っていること、です(消防法施行規則第3条の3)。資格を持っているだけでなく、権限を与えられ、建物の説明を受けていることが要件になっています。
統括防火管理者が作る建物全体の消防計画に定める事項は、7つです(消防法施行規則第4条第1項)。
- 権原を有する者ごとの権原の範囲
- 業務の一部を委託する場合の、受託者と委託の範囲
- 建物全体の訓練の定期的な実施
- 避難施設の維持管理と案内
- 災害時の消火、通報連絡、避難誘導
- 消防隊への情報提供と誘導
- その他、建物全体の防火管理に必要な事項
統括防火管理者は、この消防計画を作成し、権原を有する者の確認を受けて、消防へ届け出ます。変更するときも同じです(消防法施行規則第4条第1項・第2項)。業務を行うときは、必要に応じて権原を有する者の指示を求め、誠実に職務を行う、とされています(消防法施行令第4条の2第3項)。
届出は、2種類あります。
| 届出 | 届出をする人 | 内容 |
|---|---|---|
| 統括防火管理者の選任・解任 | 権原を有する者 | 定めたとき、解任したとき、遅滞なく届け出る。選任の届出には、資格を証する書面を添える(消防法第8条の2第4項、消防法施行規則第4条の2) |
| 建物全体の消防計画 | 統括防火管理者 | 作成したとき、変更したときに届け出る(消防法施行令第4条の2第1項、消防法施行規則第4条) |
様式は消防法施行規則に別記様式が定められています。実際に提出する書式は、管轄の消防本部に確認してください。
4. 入居後に、テナント側が知っておくこと
入居したあと、テナント側にとって大事なのは、建物全体の仕組みの中で自分の区画の防火管理がどこにつながっているかです。
賃貸の場合に、建物の管理に権原を持つのが貸主か借主かは、条文が一律に決めているわけではありません。一般には、建物全体は貸主側、借りた区画は借主側という分かれ方が考えられますが、契約や管理の形で異なります。統括防火管理者を貸主が担うのか、借主が担うのかも、条文は一律に決めていません。借りている区画について権原を持つ借主は、条文でいう「権原を有する者」に当たる場合があり、その場合は協議に関わる立場になると考えられます。
入居先で確認できる点は、4つあります。
自分の区画の防火管理者が作る消防計画にも、権原が分かれている建物では、その権原の範囲を定める必要があります(消防法施行規則第3条第3項)。全体の消防計画に書かれた権原の範囲と、自分の区画の消防計画に書いた範囲が合っているかを見ておくと、食い違いに気づけます。
全体の消防計画には、建物全体の訓練を定期的に行うことが定められます(消防法施行規則第4条第1項)。入居先で全体の訓練が行われる場合、訓練の日時や参加のしかた、費用の扱いは、契約書、管理規約、管理会社の案内で確かめます。
統括防火管理者から、自分の区画の防火管理者に指示が来ることもあります(消防法第8条の2第2項)。指示は、業務の実施のために必要な措置についてです。
居抜きで入居する場合の契約前の確認項目は、別の記事で説明しています。この章は、入居したあとの動きに絞っています。

5. ビルを所有・管理する側が押さえること
ビルを所有・管理する側が最初に確認するのは、自分のビルが第2章の表のどこに当たるかです。当たる場合は、権原を有する者が協議して統括防火管理者を定めます。協議に加わるのは、条文でいう「権原を有する者」です。どの部分に誰が権原を持つかは、条文は一律に決めておらず、契約や管理の形で異なります。
定めたときは、遅滞なく消防へ届け出ます。解任したときも同じです(消防法第8条の2第4項)。消防長または消防署長は、統括防火管理者が定められていないと認める場合には、権原を有する者に対して、定めるべきことを命ずることができます(消防法第8条の2第5項)。統括防火管理者の業務が法令や消防計画に従って行われていないと認めるときも、権原を有する者に必要な措置を講ずることを命じることができます(消防法第8条の2第6項)。
統括防火管理者にする人は、第3章のとおり、権限を与えられていることが要件です。肩書きだけを決めて、全体の防火管理に必要な権限を渡していない状態では、要件を満たしません(消防法施行規則第3条の3)。建物の位置・構造・設備の状況の説明を受け、十分な知識を持っていることも要件に含まれるため、説明の機会があると進めやすくなります。
全体の消防計画には、権原を有する者ごとの権原の範囲を定めます(消防法施行規則第4条第1項第1号)。業務の一部を外部に委託する場合は、受託者と委託の範囲も、消防計画に定めます(消防法施行規則第4条第1項第2号)。
全体の消防計画は、統括防火管理者が作成したあと、権原を有する者の確認を受けて届け出ます。変更するときも同じです(消防法施行規則第4条第1項・第2項)。
命令が履行されない場合
統括防火管理者についての命令(選任や業務の是正の命令)が履行されず、火災の予防に危険であると認められる場合などには、使用の禁止、停止または制限を命じられることがあります(消防法第5条の2第1項)。命令が履行されなかっただけで、直ちに使用が禁止されるわけではありません。この使用の禁止などの命令に違反した場合の罰則は、次の表のとおりです。拘禁刑は、刑事施設に拘置される刑です(刑法第12条)。
| 違反した内容 | 罰則 |
|---|---|
| 使用の禁止などの命令に違反した(消防法第39条の2の2第1項) | 3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金 |
| 法人の代表者などが、その業務に関して違反した(消防法第45条第1号) | 行為者を罰するほか、法人に1億円以下の罰金 |
流れは、図のとおりです。
6. 防災管理との違い。地震などに備える制度
防火管理は火災に備える制度で、防災管理は地震などの火災以外の災害に備える制度です。防災管理の対象は、政令で定める建物です。
統括防火管理者と名前が似た言葉に、統括防災管理者があります。防災管理は、火災以外の災害による被害を減らすために、防火管理の規定を準用する制度です(消防法第36条第1項)。準用とは、同じ規定を当てはめて使うことをいいます。この読み替えで、統括防火管理者は「統括防災管理者」、防火管理者は「防災管理者」に置き換わります。
防災管理が対象にする火災以外の災害は、2つです。ひとつは地震、もうひとつは毒性物質の発散その他、総務省令で定める原因によって生ずる特殊な災害です(消防法施行令第45条)。
| 比較 | 防火管理 | 防災管理 |
|---|---|---|
| 備える災害 | 火災 | 地震、毒性物質の発散などによる特殊な災害 |
| 根拠 | 消防法第8条の2 | 消防法第36条(第8条〜第8条の2の3を準用) |
| 対象の建物 | 防火管理者を定める建物、統括防火管理者を定める建物(第2章) | 政令で定める建物(消防法施行令第46条) |
| 置く人 | 防火管理者、統括防火管理者 | 防災管理者、統括防災管理者 |
統括防火管理者を定める建物が防災管理の対象でもある場合は、統括防災管理者を定めます(消防法第36条第3項)。
防災管理の対象は、政令で定める建物です(消防法施行令第46条)。自分のビルが対象かどうかは、建物ごとに異なります。
7. まとめ
覚えておきたいポイント
・統括防火管理者は、権原が分かれている建物で、権原を有する者が協議して定め、建物全体の防火管理をまとめる人です(消防法第8条の2第1項)。
・各区画の防火管理者の消防計画は、建物全体の消防計画に適合させます。統括防火管理者は、必要があると認めるとき、各防火管理者に必要な措置を指示できます(消防法第8条の2第2項・第3項)。
・政令が定めているのは4つの区分(用途・地階を除く階数・収容人員の組み合わせ)です。ほかに法が高層建築物と地下街を挙げています。
・定めたら遅滞なく届け出ます。建物全体の消防計画も、作成・変更のときに届け出ます(消防法第8条の2第4項、消防法施行令第4条の2第1項)。
・貸主と借主のどちらが担うかは、条文が一律に決めていません。入居先では、統括防火管理者の有無、全体の消防計画、自分の権原の範囲を確認します。
・統括防火管理者についての命令(消防法第8条の2第5項・第6項)が履行されないなど一定の場合には、使用の禁止・停止・制限の命令があり得ます。この命令に違反した場合は、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です(消防法第5条の2第1項、第39条の2の2第1項)。
・防災管理は、地震などの火災以外の災害に備える制度で、政令で定める建物が対象です(消防法第36条)。
・不明な場合は、管轄の消防本部に確認してください。
複雑な届出は、専門家に依頼する方法もあります
届出書など、書類の作成や提出が難しいと感じるときは、行政書士などの専門家に依頼するのも一つの方法です。なお、建物がどの項に当たるかは、管轄の消防本部に確認します。依頼すると、たとえば次のような点で、手間を減らせる場合があります。
・届出書の書式の選び方を相談できるため、書類を作り直す手間を減らせる場合があります。
・添える書面の確認を任せられるため、書類の不足や取り違えに気づきやすくなる場合があります。
・提出までの段取りを整理できるため、役所に出向く回数や、書類を何度も見直す手間を減らせる場合があります。
どの書類を任せられるかは、あらかじめ確認します。相談するかどうかは、ご自身で判断してください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の建物や店舗への適用を保証するものではありません。実際の取り扱いは、管轄の消防本部に確認してください。

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