店や事業所を構えるとき、防火管理者を決める段になって、「だれがなれるのか」「講習はどれくらいかかるのか」と手が止まることがあります。資格の条件は消防法施行令に定められていて、所定の講習を修了することで満たす道があります。ただ、講習には甲種の新規講習、再講習、乙種の3種類があり、建物の区分によって受けるものが変わります。さらに、講習を修了しただけでは足りず、その建物で管理や監督をする立場にあることも、条件に入っています。ここでは、ひとつの用途の建物を例に、資格の条件から講習の中身、受講の流れまでを、条文をもとにたどります(複数の用途が入る建物の扱いは、別に確認が必要です)。この記事を読むと、防火管理者になれる人の条件、3種類の講習の違いと内容、受講するときの確認先について知ることができます。

1. 防火管理者になれるのは、どんな人か
防火管理者になれる人は、消防法施行令が定めています。まず前提になるのは、その建物で防火管理に必要な業務を適切に行える、管理的または監督的な立場にあることです(消防法施行令第3条第1項)。講習を修了していても、原則として、この立場にない人は、その建物の防火管理者にはなれません。なお、共同住宅など一部の建物には、この要件が別に定められる特例があります(消防法施行令第3条第2項)。
そのうえで、資格を満たす道筋は建物の区分によって分かれます。甲種防火対象物(乙種より延べ面積の大きい、防火管理者を決める義務のある建物)では、4つのうちのいずれかに当たる必要があります(消防法施行令第3条第1項第1号)。
- 都道府県知事、消防長、または総務大臣の登録を受けた法人が行う、甲種防火管理講習の課程を修了した人
- 大学または高等専門学校で、総務大臣が指定する防災の学科や課程を修めて卒業し、1年以上、防火管理の実務経験がある人
- 市町村の消防職員で、管理的または監督的な職に1年以上あった人
- 上の3つに準ずる人で、総務省令で定めるところにより、防火管理者として必要な学識経験があると認められる人
乙種防火対象物では、乙種防火管理講習の課程を修了した人か、甲種の資格を満たす人が、防火管理者になれます(消防法施行令第3条第1項第2号)。
どの建物が甲種で、どの建物が乙種なのかは、用途と延べ面積で決まります。そもそも防火管理者を置く必要があるかどうかは、用途と収容人員(その建物に出入りし、勤務し、居住する人の数)で決まります。この区分の見分け方は、防火管理者の基本をまとめた記事で説明しています。
くわしく知りたい方へ
講習の修了以外の道は、大学での学科の修了や消防職員としての経験が前提になります。講習の修了を資格とする道では、実務経験の年数は条件になっていません(消防法施行令第3条第1項第1号イ、第2号イ)。
2. 講習は3種類。受ける講習は建物の区分で決まる
防火管理に関する講習は、消防法施行規則で、甲種の新規講習、甲種の再講習、乙種の講習に分けられています(消防法施行規則第2条の3)。
| 講習の種類 | だれが受けるか | 講習時間 |
|---|---|---|
| 甲種防火管理新規講習 | 甲種の資格を、初めて講習で取る人 | おおむね10時間 |
| 甲種防火管理再講習 | 新規講習を終えたあと、一定の建物の防火管理者になっている人 | おおむね2時間 |
| 乙種防火管理講習 | 乙種防火対象物の防火管理者になる人 | おおむね5時間 |
(消防法施行規則第2条の3第1項〜第4項)
このうち、防火管理者になるときにまず受けるのは、甲種の新規講習か乙種の講習です。再講習は、新規講習のあとに必要になる場合のある講習で、後の章で説明します。
甲種の資格を持っていれば、乙種防火対象物の防火管理者にもなれます(消防法施行令第3条第1項第2号ロ)。反対に、乙種講習を修了しているだけでは、原則として、甲種防火対象物の防火管理者にはなれません。ここが、講習を選ぶときの大きな分かれ目です。
この章のポイント
・最初に受けるのは、甲種の新規講習(おおむね10時間)か、乙種の講習(おおむね5時間)です。
・甲種の資格は乙種の建物にも使えますが、乙種の資格は、原則として甲種の建物には使えません。
3. 甲種の新規講習で学ぶ6つの内容
甲種防火管理新規講習は、防火管理に必要な知識と技能を身につけることを目的にした講習です。内容は、6つの事項と決められています(消防法施行規則第2条の3第2項)。

1. 防火管理の意義と制度に関すること
2. 火気の使用や取扱いの監督に関すること
3. 消防用設備等の点検と整備、避難や防火に必要な構造・設備の維持管理に関すること
4. 消火、通報、避難の訓練など、防火管理に必要な訓練に関すること
5. 防火管理に必要な教育に関すること
6. 消防計画の作成に関すること
この6つの事項は、防火管理者の業務に関わる内容です。消防訓練を年に何回行うのか、消防計画にどんな内容を書くのかといった業務の中身は、防火管理者の業務を一覧にした記事で説明しています。
くわしく知りたい方へ
消防計画については、防火管理者の基本の記事でも説明しています。
4. 乙種の講習と、甲種との違い
乙種防火管理講習は、甲種の新規講習と同じ6つの事項について、基礎的な知識と技能を身につける講習です。講習時間はおおむね5時間です(消防法施行規則第2条の3第4項)。甲種の約10時間と比べると、内容が基礎的なものにしぼられ、時間も半分ほどです。
乙種で足りるのは、乙種防火対象物の防火管理者になる場合です。乙種防火対象物は、防火管理者を決める義務のある建物のうち、延べ面積が小さいものです。特定防火対象物(飲食店、物販店、ホテルなど。人が多く集まる、または避難が難しい人がいる用途の建物)は300㎡未満、非特定防火対象物(特定防火対象物以外。工場、事業場(事務所など))は500㎡未満の建物がこれに当たります(消防法施行令第1条の2第3項第1号、第3条第1項第2号)。ただし、避難が困難な要配慮者の施設(特別養護老人ホームなど)は、防火管理者を定める義務がある場合(収容人員10人以上)、延べ面積にかかわらず甲種として扱われます(消防法施行令第3条第1項第1号、第1条の2第3項第1号)。特定防火対象物と非特定防火対象物の違いは、別の記事で説明しています。
くわしく知りたい方へ
乙種の講習を選ぶときに、気をつけたい点が1つあります。いまの建物は乙種で足りても、移転や増床で延べ面積が広がったり、用途が変わったりすると、甲種の建物になることがあります。その場合、乙種の講習を修了しているだけでは、新しい建物の防火管理者にはなれません。
また、1つの建物で、管理について権原(管理や使用を決められる法的な立場)を持つ人が分かれている場合があります。権原が分かれた甲種防火対象物では、総務省令で定める部分について、乙種防火管理講習の修了者を防火管理者にできる場合があります(消防法施行令第3条第3項)。その部分がこれに当たるかは、管轄の消防本部に確認します。
5. 講習はどこが行い、修了するとどうなるか
講習を行えるのは、都道府県知事、消防本部と消防署を置く市町村の消防長、そして総務大臣の登録を受けた法人です(消防法施行令第3条第1項第1号イ、第2号イ)。講習は、1つの機関だけが行っているわけではありません。日程、会場、申込みの方法などは、実施する機関の案内で確認します。

講習の課程を修了すると、行った機関から修了証が交付されます(消防法施行規則第2条の3第5項)。
受講を考えるときに、確認しておきたい点は3つです。
- どの機関が、いつ、どこで講習を行っているか。
- 申込みの方法と受講料。
- 甲種の講習か、乙種の講習か。
講習の細かな実施の方法は、消防庁長官が定めるとされています(消防法施行規則第2条の3第6項)。法令には、講習の目的、内容、時間、修了証の交付などが定められています。日程や申込みの手続きは、実施機関の案内に従います。
6. 甲種の再講習。対象になるのはどんな建物か
甲種防火管理再講習は、甲種の新規講習を受けたあとに、一定の建物の防火管理者に対して行われる講習です。対象は、消防法施行令第4条の2の2第1号に当たる防火対象物と定められています(消防法施行規則第2条の3第1項)。ただ、条文の番号だけでは、どんな建物なのかが分かりません。ここでは、その中身を具体的にたどります。
まず、消防法施行令第4条の2の2は、もともと防火対象物の点検の対象を定める条文です。その柱書で対象の用途を挙げ、第1号で収容人員が300人以上のものを定めています。2つの条件を両方満たす建物が、再講習の対象です(消防法施行令第4条の2の2柱書、第1号)。
再講習の対象になる建物
1. 消防法施行令は建物の用途を別表第一で(一)項から(二十)項に分けています。そのうち、(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項、(九)項イ、(十六)項イ、(十六の二)項のいずれかに当たる建物
2. 収容人員が300人以上であること
収容人員は、その建物に出入りし、勤務し、居住する人の数です。1の用途を、別表第一の言葉で具体的に並べると、表のとおりです(消防法施行令別表第一)。
| 項 | 建物の用途(別表第一の表記) |
|---|---|
| (一)項 | イ 劇場、映画館、演芸場、観覧場 / ロ 公会堂、集会場 |
| (二)項 | イ キャバレー、カフェー、ナイトクラブなど / ロ 遊技場、ダンスホール / ハ 性風俗関連特殊営業を営む店舗など / ニ カラオケボックスなど、個室で遊興の設備や物品を客に利用させる店舗 |
| (三)項 | イ 待合、料理店など / ロ 飲食店 |
| (四)項 | 百貨店、マーケットなど物品販売業を営む店舗、展示場 |
| (五)項イ | 旅館、ホテル、宿泊所など |
| (六)項 | イ 病院、診療所、助産所 / ロ 老人短期入所施設、特別養護老人ホーム、救護施設、乳児院など / ハ 老人デイサービスセンター、保育所など / ニ 幼稚園、特別支援学校 |
| (九)項イ | 公衆浴場のうち、蒸気浴場、熱気浴場など |
| (十六)項イ | 複合用途(複数の用途が入った)の建物のうち、一部に(一)〜(四)項、(五)項イ、(六)項、(九)項イの用途があるもの |
| (十六の二)項 | 地下街 |
つまり、飲食店、物販店、ホテル、病院、福祉施設、劇場などの用途で、収容人員が300人以上の建物が、原則として再講習の対象です(例外は次に述べます)。同じ用途でも、収容人員が300人に満たない建物は、対象になりません。共同住宅、学校、工場、事業場(事務所など)は、再講習の対象になりません。
例外として、第4章で触れた、権原が分かれた建物の一部で、乙種防火管理講習の修了者を防火管理者にできる部分の防火管理者は、再講習の対象から除かれています(消防法施行規則第2条の3第1項、第2条の2の2)。再講習の対象かどうか迷うときは、実施機関の案内で確認します。
再講習の内容は、2つです(消防法施行規則第2条の3第3項)。
- おおむね過去5年間の、防火管理に関する法令の改正の概要
- 火災事例などの研究
講習時間は、おおむね2時間です。新規講習が防火管理の基本を学ぶ講習であるのに対し、再講習は、法令の改正と火災事例を学び直す講習です。
何年ごとに受けるのかといった受講の時期は、実施機関や管轄の消防本部の案内で確認します。
7. 講習を申し込む前に、確認しておきたいこと
講習の申込みの前に、自分の建物や立場について、3つのことを確認しておくと、講習の選び間違いを避けられます。
1. 建物が甲種か乙種か。用途と延べ面積で決まります。ここを取り違えると、必要のない講習を受けたり、足りない講習で済ませたりすることになります。
2. 防火管理者にする人が、管理的または監督的な立場にあるか。講習を修了する本人が、その建物で防火管理に必要な業務を行える立場にいる必要があります。
3. 先々の変更の見込み。移転、増床、用途の変更があると、甲種か乙種かが変わることがあります。
講習を修了して防火管理者を決めたあとの手続きや業務については、防火管理者の基本の記事、業務の全体は業務の記事、日常の確認項目は下の記事で説明しています。
8. 防火管理者を定めなかったとき、業務が行われていないとき
防火管理者を定める義務のある建物では、防火管理者を定めなければなりません(消防法第8条第1項)。定めていない場合も、すぐに罰則になるのではなく、まず消防長または消防署長から、防火管理者を定めるよう命令が出されることがあります(消防法第8条第3項)。
罰則に出てくる拘禁刑(刑事施設に拘置される刑。刑法第12条)と拘留(1日以上30日未満、刑事施設に拘置される刑。刑法第16条)は、次の表のとおりです。
| 違反した内容 | 罰則 |
|---|---|
| 防火管理者を定める命令に違反(第8条第3項、第42条第1項第1号) | 6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| 業務の是正命令に違反(第8条第4項、第41条第1項第2号) | 1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 |
| 選任・解任の届出を怠った(第8条第2項、第44条第8号) | 30万円以下の罰金または拘留 |
業務の是正命令は、防火管理者が行うべき業務が法令や消防計画に従って行われていないと認めるときに命じられることがあります(消防法第8条第4項)。
上の2つの命令違反については、法人の代表者や従業者が、その法人や個人事業主の業務に関して命令に違反したときは、法人や個人事業主にも罰金刑が科されます(消防法第45条第3号)。
9. まとめ
覚えておきたいポイント
・防火管理者になれるのは、その建物で防火管理の業務を適切に行える、管理的または監督的な立場の人で、かつ資格を満たす人です(消防法施行令第3条第1項)。
・資格を満たす道には、講習の修了のほか、大学での学科の修了や消防職員の経験などがあります。講習の修了では、実務経験の年数は条件になっていません。
・講習は3種類です。甲種の新規講習はおおむね10時間、乙種はおおむね5時間、再講習はおおむね2時間です(消防法施行規則第2条の3)。
・甲種の資格は乙種の建物にも使えますが、乙種の資格は、原則として甲種の建物には使えません。
・甲種の新規講習の内容は、防火管理の制度、火気の監督、設備の点検・維持管理、訓練、教育、消防計画の6つです。
・講習を行うのは、都道府県知事、消防長、総務大臣の登録を受けた法人です。修了すると修了証が交付されます。日程と申込みは実施機関の案内で確認します。
・再講習の対象は、原則として、飲食店、物販店、ホテル、病院、福祉施設、劇場などの用途で、収容人員300人以上の建物の防火管理者です(消防法施行令第4条の2の2柱書、第1号)。
・防火管理者を定める命令に違反すると、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象です(消防法第8条第3項、第42条第1項第1号)。
・選任・解任の届出を怠ると、30万円以下の罰金または拘留の対象です(消防法第8条第2項、第44条第8号)。
・不明な場合は、管轄の消防本部に確認してください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の建物や店舗への適用を保証するものではありません。実際の取り扱いは、管轄の消防本部に確認してください。

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