「うちの店には、防火管理者が必要なのだろうか」
開業の準備中の方や、店舗・工場を引き継いだ方は、こうした疑問を持ちやすいところです。
結論から言うと、「建物の使い方」と「建物にいる人数」の2つを調べて、決まった人数の基準と比べます。基準の人数以上なら、防火管理者を決めなければならない建物にあたります。
この記事を読むと、自分の店や工場で防火管理者を決める必要があるかを、順番に確かめられるようになります。あわせて、決めたあとの届出と、甲種・乙種の違いも分かります。
この記事の前提
・飲食店だけ、工場だけなど、1つの用途だけの建物で事業を営む方を想定しています。
・ビルのテナントなどは、「複合用途」(いくつかの用途が入る建物の区分)になることがあり、考え方が異なります。この記事は、用途と収容人員の基準を説明するものです。このほかに定められている建物もあります。自分の建物が当たるかは、消防本部に確認してください。
・この記事は制度の一般的な説明です。個別の建物の最終的な判断は、管轄の消防本部が行います。消防本部に確認する内容は、第8章にまとめています。
この記事では、次の3つの手順で確かめます。
1. 防火管理者とは。誰が決める決まりか
防火管理者は、消防計画の作成、訓練の実施などの業務を行う人です。
防火管理者を決める義務があるのは、建物の管理について「権原」を持つ人です(意味は下で説明します)。
防火管理者は、消防計画の作成、訓練の実施などの業務を行う人です。たとえば、次のような業務があります。
- 消防計画を作る(消防計画: 防火管理のための計画。くわしくは別の記事で説明します)
- 消火、通報、避難の訓練を行う
- 建物の収容人員(建物にいる人の数を、決まった方法で出した数)の管理をする
防火管理者を決める義務があるのは、建物の管理について「権原」を持つ人です(意味は下に補足します)。消防法は、次のように定めています。
(前略)防火対象物で政令で定めるものの管理について権原を有する者は、政令で定める資格を有する者のうちから防火管理者を定め、(中略)消防計画の作成、当該消防計画に基づく消火、通報及び避難の訓練の実施、(中略)収容人員の管理その他防火管理上必要な業務を行わせなければならない。
(前略・中略の部分は省略しています。)
この文に出てくる言葉は、次のような意味です。
- 防火対象物: 消防法の規制の対象になる建物などです。
- 権原(権原を有する者): その建物の管理について決める権利を持つ人、という意味合いの言葉です。事業を営む方ご自身が当たるのか、建物の所有者などが当たるのかは、消防本部に確認してください。
- 政令: 消防法施行令のことです。どの建物が対象になるかは、この施行令で決まっています。

2. 手順1:建物の使い方が、どの「項」かを調べる
建物の使い方ごとに、別表第一の「項」が決まっています。
この記事では、建物を「特定防火対象物」と「非特定防火対象物」の2つに分けて説明します。
特定防火対象物は、多数の人が出入りする建物などとして、法令で定められた防火対象物です。特定防火対象物にあたらないものが、非特定防火対象物です(消防法第17条の2の5第2項第4号、消防法施行令第34条の4)。
別表第一は、建物を使い方(用途)ごとに分けた一覧表です。
番号の部分が項、その中の細かい区分がイ・ロです。項は、建物の使い方で決まります。
下の表は、2つの区分と、それぞれに当たる用途の例です。左の列で区分を確かめ、右の列で自分の建物の用途に近いものを探してください(施行令別表第一)。
| 区分 | 用途の例 |
|---|---|
| 特定防火対象物 | 飲食店、待合・料理店、物品販売店舗(百貨店、マーケットなど)など |
| 非特定防火対象物 | 工場又は作業場、事務所などの事業場など |
例外として、(六)項ロは、老人短期入所施設、特別養護老人ホーム、救護施設、乳児院、障害児入所施設、障害者支援施設など、避難に手助けが要る方が主に利用する福祉施設の区分です。細かい条件は令別表第一で確認します。
2つの区分の見分けは、関連記事特定防火対象物と非特定防火対象物の違いで確認できます。項が分からないときは、関連記事あなたの建物は何項?防火対象物の用途別項判定をわかりやすく解説で調べてください。それでも分からないときは、消防本部に確認してください。

3. 手順2:建物にいる人数(収容人員)を出す
収容人員は、建物にいる人数を、決まった計算で出した数です。
計算の式は、建物の使い方によって違います。
収容人員は、建物にいる人数を、床面積などを使った、決まった計算で出した数です。
計算の式は、国の決まり(消防法施行規則)で、用途ごとに決められています。式は用途によって違います。
たとえば、物品販売店舗(特定防火対象物)の式は、次の3つを足して出します。
- 従業者の数
- 飲食または休憩に使う部分の床面積を、3㎡で割った数
- それ以外の部分の床面積を、4㎡で割った数
対象になる部分は、施行規則に定めがあります。
従業者が5人、飲食部分が12㎡、その他の部分が60㎡とします。
5人 + 12÷3(4) + 60÷4(15) = 24
これは式の形を知るための仮の例で、実際の判定ではありません。
図書館、浴場、神社・寺院、事業場などにも、それぞれ式があります。
対象になる部分、端数の扱い、飲食店と工場の式、従業者の数え方(交代制やパートの方をどう数えるかなど)は、自分の建物に合わせて消防本部に確認してください。確認する内容は、第8章にまとめています。
くわしく知りたい方へ
4. 手順3:人数の基準と比べる
特定防火対象物は30人以上、非特定防火対象物は50人以上が基準です(例外は10人以上)。
基準の人数以上なら、防火管理者を決めなければならない建物にあたります。
下の表で、自分の区分の行を確かめます。
収容人員の基準は、特定防火対象物と非特定防火対象物で分かれています(施行令第1条の2第3項第1号)。
自分の建物がどちらに当たるかは、第2章で調べます。基準を、表にまとめました。
| 区分 | 収容人員の基準 |
|---|---|
| 特定防火対象物(飲食店、物品販売店舗など) | 30人以上 |
| 非特定防火対象物(工場、事業場(事務所など)など) | 50人以上 |
次の3つは、例外です。
- (六)項ロ(老人短期入所施設、特別養護老人ホーム、障害者支援施設など)は、10人以上です。
- (十六)項イ(複合用途)と(十六の二)項(地下街)は、建物に(六)項ロの部分があるときは10人以上です。
- (十六の三)項と、(十八)項から(二十)項までは、この基準の対象になりません。
建物の中に複数の用途が入るとき(ビルの一室など)は、複合用途の区分になることがあります。その場合は、次の①②のどちらかを進めてください。
- ①ビルの管理会社やオーナーに、建物全体の用途区分(別表第一の項)と収容人員を聞きます。分かったら、②に進みます。
- ②管轄の消防本部に、建物全体の用途と、自分の店が入る階・面積を伝えます。防火管理者を決める必要があるかを聞きます。
結論
収容人員が、区分ごとの基準の人数以上なら、その建物は、防火管理者を決めなければならない建物にあたります。
防火管理者を決める義務があるのは、その建物の管理について「権原」を持つ人です。
基準に達しない場合に、ほかの決まりや各地の条例で選任が必要になることがないかは、消防本部に確認してください。ご自身で「うちは対象外」と決めてしまわないでください。
くわしく知りたい方へ

5. 選任したあとの届出
防火管理者を決めたら、遅滞なく(遅れずに)消防に届け出ます。
防火管理者をやめてもらったとき(解任したとき)も、同じです。
防火管理者を決めたときは、遅滞なく、管轄の消防長(消防本部の長)または消防署長(消防署の長)に届け出ます。解任したときも同じです。
届出の表にすると、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 届出書 | 防火管理者の選任・解任の届出書(別記様式第一号の二の二) |
| 添付書類 | 選任の届出には、防火管理者の資格を証する書面を添えます |
解任の届出に添付書類が必要かどうかは、消防本部に確認してください。
防火管理者には、消防計画を作る業務があります。消防計画の届出は、別記様式第一号の二の書式で行います。選任の届出とは、書式が違います。
守らなかった場合。
防火管理者を定める義務のある建物では、防火管理者を定めなければなりません(消防法第8条第1項)。定めていない場合も、すぐに罰則になるのではなく、まず消防長または消防署長から、防火管理者を定めるよう命令が出されることがあります(消防法第8条第3項)。
罰則に出てくる拘禁刑(刑事施設に拘置される刑。刑法第12条)と拘留(1日以上30日未満、刑事施設に拘置される刑。刑法第16条)は、次の表のとおりです。
| 違反した内容 | 罰則 |
|---|---|
| 防火管理者を定める命令に違反(消防法第8条第3項、第42条第1項第1号) | 6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| 業務の是正命令に違反(消防法第8条第4項、第41条第1項第2号) | 1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 |
| 選任・解任の届出を怠った(消防法第8条第2項、第44条第8号) | 30万円以下の罰金または拘留 |
業務の是正命令は、防火管理者が行うべき業務が法令や消防計画に従って行われていないと認めるときに命じられることがあります(消防法第8条第4項)。
上の2つの命令違反については、法人の代表者や従業者が、その法人や個人事業主の業務に関して命令に違反したときは、法人や個人事業主にも罰金刑が科されます(消防法第45条第3号)。
くわしく知りたい方へ

6. 甲種と乙種。延べ面積と講習時間の違い
防火管理者には、甲種と乙種があります。
建物の延べ面積で分かれ、受ける講習の時間も違います。
法令の対象になる建物は、延べ面積によって、甲種防火対象物と乙種防火対象物に分かれます。延べ面積は、建物の各階の床面積を合計したものです。
乙種は、30人以上の基準の建物(特定防火対象物)と50人以上の基準の建物(非特定防火対象物)のうち、延べ面積が小さいものです。境目は、区分によって2つあります(施行令第3条第1項)。
| 区分 | 乙種の延べ面積の境目 |
|---|---|
| 特定防火対象物(飲食店、物品販売店舗など) | 300㎡未満 |
| 非特定防火対象物(工場、事業場(事務所など)など) | 500㎡未満 |
例外として、(六)項ロは10人以上の区分のため、この表(乙種の区分)の対象ではありません。(十六)項イと(十六の二)項は、(六)項ロの部分がないものが300㎡未満の対象です。
甲種と乙種の違いを、表にまとめます(施行令第3条第1項、施行規則第2条の3)。
| 区分 | 当てはまる建物と、受ける講習 |
|---|---|
| 甲種防火対象物 | 施行令第1条の2第3項第1号の建物(10人以上の区分を含む)のうち、乙種に当たらないもの。新規講習はおおむね10時間、再講習はおおむね2時間 |
| 乙種防火対象物 | 30人以上・50人以上の基準の建物で、延べ面積が上の表の境目より小さいもの。乙種防火管理講習はおおむね5時間 |
10人以上の区分は、甲種です。
再講習は、新規講習とは別の講習です。再講習の対象となる方・受ける時期、防火管理者になれる資格の範囲、講習を行う団体と日程は、消防本部に確認してください。自分の建物にどちらの資格が必要かも、同じです。
7. まとめ
確かめる順番は、「使い方→人数→基準と比べる」の3つです。
基準の人数以上なら、防火管理者を決めなければならない建物にあたります。
選任したら遅滞なく届け出ます。
- 防火管理者が必要かは、建物の使い方(別表第一の項)と収容人員で確かめます。
- 基準は、特定防火対象物(飲食店、物品販売店舗など)が30人以上、非特定防火対象物(工場、事業場(事務所など)など)が50人以上です。例外として、(六)項ロは10人以上です。
- 収容人員が基準の人数以上なら、その建物は、防火管理者を決めなければならない建物にあたります。決める義務があるのは、建物の管理について「権原」を持つ人です。
- 選任したら、遅滞なく、防火管理者の選任・解任の届出書(別記様式第一号の二の二)で届け出ます。選任の届出には、資格を証する書面を添えます。消防計画の届出は、別記様式第一号の二の書式で行います。
- 防火管理者を定める命令に違反すると、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象です(消防法第8条第3項、第42条第1項第1号)。
- 選任・解任の届出を怠ると、30万円以下の罰金または拘留の対象です(消防法第8条第2項、第44条第8号)。
- 業務の是正命令に違反すると、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象です(消防法第8条第4項、第41条第1項第2号)。
- 30人・50人の基準の建物は、延べ面積(300㎡/500㎡)で甲種・乙種に分かれます。講習は、甲種の新規がおおむね10時間、乙種がおおむね5時間です。
- 自分の項、飲食店・工場の式、従業者の数え方、基準に達しない場合の扱いは、消防本部に確認してください。
8. 管轄の消防本部への確認のしかた
次の点は、管轄の消防本部の予防担当に確認してください。
下のチェックリストを、そのまま使えます。
複雑な届出は、専門家に依頼する方法もあります
防火管理者の選任・解任の届出書や、消防計画の届出書など、書類の作成や提出が難しいと感じるときは、行政書士などの専門家に依頼するのも一つの方法です。依頼すると、たとえば次のような点で、手間や間違いを減らせる場合があります。
・書式の選び方や、添える書面の確認を任せられるため、記載の漏れや、添付書類の不足を減らせる場合があります。
・届出書の作成や提出を任せられるため、役所に出向く時間や、書類を何度も見直す手間を減らせる場合があります。
・手続きにかける時間を、店や工場の準備や営業に回しやすくなる場合があります。
どの書類を任せられるかは、依頼先の専門家に確認してください。依頼するかどうかは、書類の数や内容、ご自身が使える時間を見て決めてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の建物や店舗への適用を保証するものではありません。実際の取り扱いは、管轄の消防本部に確認してください。

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